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12話 王女の嘘と冒険者の娘という仮面

Author: みみっく
last update Last Updated: 2025-12-10 17:23:32

 翌日、ユウは父親の商売の都合を待たずに、一人で町へと向かった。

 リーナと待ち合わせをしていた町の広場に到着すると、石畳の上に、ぽつんとリーナの姿があった。彼女は地面に視線を落とし、俯いており、その表情には小さな不安が影を落としていた。

 ユウは、慌てて声を掛けた。

「リーナ!まだ、こんな朝早くから来てたのか?」

(俺は、リーナが待たなくても良いように、早めに来て町の友達と遊んで時間潰しでもすれば良いやって思って早く来たのに、まさかもう来ていたとは)

 声を掛けられ、リーナの身体は「ビクッ」と小さく震えた。そして、不安から解放された安堵と喜びが、一気に彼女の表情を彩った。いつもの『にぱぁ』という、光が弾けるような飛び切りの笑顔をユウに向けた。

「……わぁっ。別に……早く起きたから……暇だったのよ」

 彼女は、嬉しさを隠そうと、すぐに照れ隠しの言葉を並べた。

「もしかしたらユウが早く来てるかもって思っただけよ……待たせたら失礼でしょ……。わたしから約束をしたんだし……それだけよ」

 リーナは、そう言うと、顔を赤く染めながらそっぽを向いた。その横顔には、ユウが早く来てくれたことへの隠しきれない喜びが滲んでいた。

 ユウは、そんなリーナの照れ隠しなど気にも留めず、親愛の情を込めて、自然にリーナの小さな手を握った。その瞬間、リーナの身体は再び「ビクッ」と大きく震え、顔の赤みはさらに濃く深く染まった。彼女の透き通る青い瞳は、ユウの優しく大きな手の感触に、戸惑いと嬉しさで揺らめいていた。

「俺も、リーナを待たせちゃ悪いと思って早く来たんだけどな……遅かったか。あまり早く来ると暇だし、危ないんじゃないのか?」

「ん? 大丈夫よ。近くに警備兵の詰め所もあるじゃない」

 ユウに手を握られたまま、リーナの透き通る青い瞳の視線は、広場の片隅に立つ警備兵の詰め所を捉えていた。その視線には、少しの緊張が混じっている。

 ユウは、その視線に気づかぬふりをしつつも、リーナの小さな手を、もう一度ギュッと握りしめて言った。

「ホントだ……でもさぁ……心配だし。朝早くから一人で待ってるのは禁止な?」

 ユウの真剣な思いやりが、強く握られた手の温もりと共にリーナに伝わったのだろう。彼女は、照れくさそうに「んふふ♪」と微笑むと、恥ずかしさから視線をユウから逸らし、素直な返事をした。

「んふふ♪ 分かったわよ……い、行くわよ!」

 リーナは、そう言うと、ユウに手を引かれるまま、弾むような足取りで町と森を結ぶ道へと向かっていった。その顔には、朝一番でユウに会えたことへの、満ち足りた幸福感が浮かんでいた。

「そういえば……ユウって農家よね?わたしと遊んでて良いの?」

 二人は手を繋いだまま歩きながら、リーナが少し遠慮がちに尋ねてきた。その声には、ユウの家族の仕事の邪魔になっていないかという、かすかな心配が滲んでいた。

「あぁ、うん。大丈夫だって!」

 ユウは朗らかに笑って答えた。

「兄ちゃんが親父たちの畑仕事を手伝ってるからな。俺は将来、冒険者になるってずっと言ってるからさ。畑は兄ちゃんが継ぐことになってるんだ」

 ユウの言葉を聞いたリーナは、ユウの個人的な事情を少し知ることができて、内心嬉しそうな顔をした。しかし、それを悟られまいと、すぐにクールな表情を取り繕い、照れ隠しで素っ気なさそうな返事を返した。

「ふぅーん……そうなんだ」

 その言葉とは裏腹に、彼女の透き通る青い瞳の奥では、ユウが冒険者という夢を持っていることへの関心と、自分と遊ぶ時間を確保してくれていることへの、控えめな喜びが揺らめいていた。

「リーナの家は冒険者なのか? 剣術なんて普通は習わないだろ?」

 ユウは素朴な疑問を口にした。習い事ができるほど裕福な家であれば、危険な剣術を学ぶよりも、護衛を雇う方が合理的だ。剣術を日常的に習うような家柄といえば、それは兵士や騎士、あるいは生業として魔物と対峙する冒険者をやっている家庭くらいなものだ。しかも、リーナの格好は可愛らしいフリル付きとはいえ冒険者風であり、騎士や兵士の家の娘ならば、まずそのような服装はさせないだろう。

 ユウの鋭い指摘に、リーナは一瞬、目に見えて動揺した。その透き通る青い瞳が不安げに揺れた。

「そ、そうよ。両親が冒険者よ。父が剣士なの……」

 リーナは、その動揺を隠すように、少し早口で答えた。彼女は、王女である身分を隠すために、この嘘を必死で守ろうとしていた。

 二人は森に少し深く入り込み、木々の葉を縫って木漏れ日が地面に斑模様を作る、静かで穏やかな空間に辿り着いた。そこで、二日目の冒険者ごっこが始まっていた。

 リーナは、ユウに剣術を教える師としての立場でありながら、どこか緊張した面持ちで、持ってきた二本の木剣のうち一本を両手に抱えていた。

「ユウ、はい。これを使って」

 彼女が差し出す声は小さく、昨日より少しだけ真面目な雰囲気に、どこか照れくさそうな感情が混じっていた。

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